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この国の龍はトカゲの身体に立派な角と大きな翼、そして細長い二本の髭を生やしたような姿をしている。
角は牡鹿のそれのようにいくつも枝分かれをして天を突くようにそびえており、翼は蝙蝠のそれを何千倍も力強くしたような形状だ。鯉のような細長い髭は水中にあるかのように自然と浮かんでおり、時折波打つように動いている。
神々しい姿をした二頭の龍は、龍舎に敷き詰められた柔らかい絨毯の上でのんびりとその身を横たえ、仲睦まじげに二頭で話していた。
『ごめんなさいねぇ。あの子ったらあなたにろくに挨拶もしないで』
自然体で話す龍たちは、世間一般でいうと、噂好きの主婦のような口調である。
二頭が話している光景自体は、龍舎の管理人にとっては見慣れた光景ではある。
だが、山のように巨大な龍たちが、そこらの中年女性のような口調で話すことには慣れることが中々できなかった。
『それはお互い様でしょ。赤だか青だか知らないけど、あの子たちに騎士団の団長を兼任させるのは良くないわよねぇ。変なしがらみばっかり背負っちゃって』
『今度皇帝龍の坊やに言って辞めさせようかしら?』
『言ってもだめでしょ~。あの子皇帝ちゃんに甘いんだもの』
二頭のいう皇帝龍というのは、この国の皇帝を代々守護している黒龍のことである。
管理人は二頭の話を聞いているうちに知ったのだが、どうやら蒼龍と紅龍の二頭に比べると、皇帝龍は遙か年下で、力量的にも格下らしく、『坊や』扱いなのだ。
てっきり皇帝龍の方が格上だと思っていた管理人にとっては恐ろしい話だ。
なぜなら、皇帝の権威が維持できている理由は、皇帝龍が二頭よりも上位の存在であると一般的に認識されていることにあるからだ。
管理人は特殊な立場にあるため、どちらの陣営の話も聞こえてくるのだが、蒼龍の騎手を頭とする蒼龍騎士団と、紅龍の騎手を頭とする紅龍騎士団は、隙あらば自身たちの派閥が権威を握ろうと画策しているのだ。
それが表面化していない理由のひとつが、皇帝龍の存在である。
自分たちが最高戦力と仰ぐ二頭よりも上位の存在が皇帝を護っているため、表だって対立しないように務めている。
もし本当は二頭の方が格上だと知れれば。激しい権力闘争が始まるかもしれない。
幸か不幸か、それを知っているのは管理人だけだった。
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