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龍たちはとても賢かった。
かつて龍たちはこの国の初代の王と契約を交わし、共に戦うようになった。
その当時から、龍たちは人間たちがどれほど小賢しい存在か知っていて、その対策としてひとつの取り決めをすべての龍が守ることにしていた。
その取り決めとは、『龍と話ができるのは選ばれた一握りの存在のみ』ということである。
誰もが龍と話ができる、ということになれば、龍のことを利用しようという良からぬことを考える輩が出てくるのは自明の理だった。
それを防ぐため、龍たちは人間と直接会話することを自ら禁じていた。意思疎通が出来るのはごく限られた者だけで、それは人間の都合とは関係なく無作為に選ばれる。
現在龍たちと会話が出来るのは、当代の皇帝と龍舎の管理人のふたりだけ。龍たちに認められ、背に乗って共に戦う存在である騎手たちですら、龍たちの意思を直接伝えられているわけではないのだ。
皇帝の方はともかく、元はただの一般庶民だった管理人にしてみれば、栄誉ではあってもとんでもない重責を背負わされる羽目になっているわけで、複雑な想いである。
なにせ龍たちと意思疎通ができるのだから、下手な行動は龍たちの意思とされてしまうのだ。管理人の行動を龍たちの意思だと深読みしたがる者たちは多く、それが巡り巡ってあわや大騒動に発展しかけたこともあった。
ゆえに管理人は友人関係すら思うように構築できず、そういう意味では孤独なのだ。
とはいえ、すべての国民が豊かで幸せであるわけでもない現実がある以上、龍に選ばれたというだけで城に勤められ、十分な衣食住を保証されているのに文句も言えないのだが。
国を揺るがしかねない情報が、頭の上で平然と投げ交わされていたとしても、そっと胸の内に仕舞っておく。それも管理人の勤めのうちだった。
『ねえ、あなた聴いてる?』
「はいはい。聴いていますよ」
管理人は龍の呼びかけに応えながら、龍舎の清掃を進めていた。
管理者を始めた当初は、龍たちに話しかけられようものなら、何もかも放り出して耳を傾けていたが、人間は慣れるものである。
龍たちの話は大抵の場合、ただの世間話であったため、管理人側もそこまで真剣に話を聴く必要が無いことを悟り、仕事をこなしながら片手間に聴くほどに慣れていた。
ただ、気を入れて話を聞かなければならない時がある。
『あなたは、今回はどっちが勝つと思う?』
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