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管理人は話を聴いている間に、ちゃんと応えを決めていた。
いや、正確には最初からどちらが勝つかは考えていたのだが、二頭の話を聴いて実力自体は変わらない、ということがわかったからだ。
「そうですね……際どいところだとは思いますが、お二方の話も踏まえても、今回は紅龍さんの騎手が勝つと思います」
ちなみに管理人が「さん」付けで龍たちを呼ぶのは、龍たちにそう呼ぶように言われたからである。管理人としては恐れ多いことだったが、龍たちの希望である以上、それを拒否するわけにもいかず、「さん」付けで呼ぶようになった。
管理人の言葉に、蒼龍が不満そうな声をあげる。
『え~。どうしてよ~』
「理由はいくつかあります。大きいのは彼にとっての一大決戦が、模擬戦自体ではないからでしょうか」
その少年の言いように、二頭の龍は顔を見あわせた。
『……もしかして?』
『そうなの? ねえ、そうなの?』
少し匂わせただけですぐに察したらしく、勢い込んで管理人に迫る龍二頭。
龍二頭に迫られるなど、唯人ならば気絶ものの恐怖だが、管理人は慣れた物だ。
苦笑しつつ、勿体つけずに素直に認める。
「はい。どうやら試合後に、現在おつきあいしている女性に結婚を持ちかけようとしているらしいですよ」
このことを管理人は、同じ城勤めの女中たちの噂で聴いていた。
『やっぱりー!』
『絶対そうだと思った!』
大きな歓声を上げ、盛り上がる二頭に管理人は思わず耳を塞ぐ。
塞いだところで龍の言葉という者は頭に直接響いてくるわけで意味はないのだが、思わずそうしてしまうほど、二頭の声は大きかった。
「……と、とにかくそういうわけで、今回は気合いの入りようが違うと思います」
『素敵な話ね~。そういうの好きよ』
『でも、大丈夫かしらね……負けたら恥ずかしいのに』
『それはきっと大丈夫よ! 負けたら負けた時のことよ』
あっけらかんと二頭の龍はやりとりを重ねる。
管理人がこの話を二頭に伝えたのは、それで二頭が戦いの結果に影響するような手心を加えることがないと確信していたからだ。
互いの実力が伯仲しているからこそ、勝敗には騎手の実力がそのまま出る。
紅龍の騎手が決戦を制することができるかどうかは、本人の努力にかかっていた。
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