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親父の言いつけで、うちの親戚が宮司をやっている神社に、日本酒を奉納しにやってきたのは、すっかり山が真っ赤に紅葉している秋の半ばのことだった。
「あら、もしかして、あずさくん?いらっしゃい。ずいぶん大きくなったわねぇ!」
「ご無沙汰してます」
俺の差し出した日本酒を恭しく受け取ったおばさんは、仏壇の脇に置いた。俺はすぐに、線香をあげる。仏壇の上の壁には、白黒の遺影がいくつも並べられている。その一人一人に見下ろされてるように感じたのは、小学生の頃、ここに泊まった夜だったのを思い出す。
「何年ぶりかしら。あずさくんが、中学生の頃以来だから……」
「今、大学二年なんで、五年ぶりくらいですかね」
俺は座布団の上に正座をしながら、台所のほうへ向かうおばさんに返事をした。
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