カラス―2

1/2
前へ
/41ページ
次へ

カラス―2

 会話の際、相手とのコミュニケーションは普通その表情でとる。  ――――それが不可能なのが前方の相手だ。都合のいいように私の反応を盗みとって悦に浸る。覆面の効果は大きい。 「あの夢に誘ったのは他の誰でもない、ワタシです」  笑う口元に、ちらりと舌が覗く。 「意味が分からないんですけど」  よりによって、どうして私の前に現れるのだろう。他にも人間はたくさんいるはずである。選出の基準が知りたいところだ。 「アナタが良かったんですよ」  身を乗り出してそう答えた。 「歪ませ甲斐が……じゃなくて救い甲斐があって」  悪魔らしい台詞。  私はこの覆面をカラスと呼ぶことに決めた。理由は、"仰々しいペストマスクだから"の一択だ。 「……ふうん、で、夢と何の関係があるの」  乗り気ですねえ、と愉快そうに両手を合わせる。 「最近幸福度が下がっていたので、ワタシが興味本意で二人を引き合わせたんです」 「あの夢は気まぐれだったってわけね」  カラスに幸の薄さを嗅ぎとられ、見かねられる始末。ちょっと情けない。 「ええ。でも……アナタは思い出してしまった」  脳裏に樹の姿が浮かぶ。  夢の中、照れ笑ったあの表情が反復されると、一つ鼓動が大きく鳴った。言葉にならない想いというのはきっとこの事を言うのだろう。  恋。  でも私は、この気持ちをそう呼べなかった。 「ま、予想通りでしたけどね!」  最近は忙しいのか、メールのやり取りも途絶えている。友達の少ない私と違って、充実した日々を過ごしているのだろう。 「……最低」 「何故です? 思い出せたのだから良かったでしょう、このまま忘れてしまうはずだったのですよ?」 「だから最低って言ってるのよ! こんな気持ちにしておいて……叶わないって知ってるくせに!」  かっとなって、そして悔しくて、私は声を荒げた。力強くテーブルに置いたチューハイの、炭酸が逃げる音が一瞬。  こう一人で熱くなって馬鹿みたいだと、結局想いは低迷するのだ。 「だからワタシがいるんですよ。アナタのような人間に奇跡を与える媒介として」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加