4人が本棚に入れています
本棚に追加
春の夜。
私は眠っていたはずであったのに、どういうわけか立っていた。しっかりとした意識をもってアスファルトの上に。
アスファルト、というのも語弊がある。粘土というか、ガラスというか。玉石混淆という言葉の似合う模様の地だった。
不思議な色をした空。
そびえた海のようにも見える。
例えるなら、ピンク・レディとスカイ・ダイビング。……いや、こんな時に酒の話は止そう。
宝石のようにカラフルな星たちが留まって、キラキラと輝く。幻想的でいてどこか怖い。
星や月が、だんだんと大きくなって迫り来る――――といったような悪夢にうなされていたから。小さい頃からのトラウマなのだ。
周りを見渡すと、ここはどうやら街のようで、そこかしこに街灯が瞬いている。静かな不思議な街。眩いネオンのぎらつく都会の灯りとは違う、緩やかでいて不安のそそられる景色。
決して、私の知っている現実世界のものではない。やはり一夜の夢なのだろうか。
レンガの歩道の先、足音を聞いた。
スニーカーで歩く音。
さほど距離はないようで、私はその姿を靴音とともに捉えた。
そうして、息を飲んだ。
相手もこちらに気がつくと、同じように動作を停止した。
誰? ……違う、自分はあの子を知っている――――そう、どちらも視線で会話した。
目の前に佇むのは、あどけない大人。不完全に出来上がった、一瞬の姿。
「樹……?」
と。名を呼んだ。
懐かしい響きに、ふうわりと、何かが溢れる。
「このみ、このみ?」
うん、と頷いてみせた。互いに歩み寄って、ほどほどの距離に対面する。
ここはどこ? 夢? そういった疑問よりも先に、私は突然の再会に言葉を探した。たくさんある。そして徐々に、思い出も感情も甦ってゆく。
最初のコメントを投稿しよう!