春の夢

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 春の夜。  私は眠っていたはずであったのに、どういうわけか立っていた。しっかりとした意識をもってアスファルトの上に。  アスファルト、というのも語弊がある。粘土というか、ガラスというか。玉石混淆という言葉の似合う模様の地だった。  不思議な色をした空。  そびえた海のようにも見える。  例えるなら、ピンク・レディとスカイ・ダイビング。……いや、こんな時に酒の話は止そう。  宝石のようにカラフルな星たちが留まって、キラキラと輝く。幻想的でいてどこか怖い。  星や月が、だんだんと大きくなって迫り来る――――といったような悪夢にうなされていたから。小さい頃からのトラウマなのだ。  周りを見渡すと、ここはどうやら街のようで、そこかしこに街灯が瞬いている。静かな不思議な街。眩いネオンのぎらつく都会の灯りとは違う、緩やかでいて不安のそそられる景色。  決して、私の知っている現実世界のものではない。やはり一夜の夢なのだろうか。  レンガの歩道の先、足音を聞いた。  スニーカーで歩く音。  さほど距離はないようで、私はその姿を靴音とともに捉えた。  そうして、息を飲んだ。  相手もこちらに気がつくと、同じように動作を停止した。  誰? ……違う、自分はあの子を知っている――――そう、どちらも視線で会話した。  目の前に佇むのは、あどけない大人。不完全に出来上がった、一瞬(ひととき)の姿。 「(いつき)……?」  と。名を呼んだ。  懐かしい響きに、ふうわりと、何かが溢れる。 「このみ、このみ?」  うん、と頷いてみせた。互いに歩み寄って、ほどほどの距離に対面する。  ここはどこ? 夢? そういった疑問よりも先に、私は突然の再会に言葉を探した。たくさんある。そして徐々に、思い出も感情も甦ってゆく。
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