春の夢

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「久しぶり、か?」  首を傾げて、私よりも先に樹が挨拶をした。 「うん。……あれ、何で」 「何で、若返ってるんだ?」  樹の言葉に初めて、自分の姿が変化していることに気がついた。  お互いに確認したところ、姿は高校時代。ふと自分の手を見てみると、ああ、小さいしすべすべしていて納得する。   「うわ~なっつかし。夢の中で昔のこのみと会うってすげーな」 「夢にしては随分冴えてるんだけど……」  どちらの夢かは分からない。確か、夢の世界は精神の深いところで繋がっていると、何かの本で読んだ気がする。ということは、二人で夢をシェアしているのだろうか。 「だよなあ、気持ち悪い世界だもんな」  空を見上げる樹。  つられて見上げると、ゆっくりと、星が動いている――こういうのが苦手なのだ。 「起きたら忘れてたりするのかな?」  視線を樹に戻して、反応をうかがった。「なんか勿体ないな」と、少し残念そうに笑う。 「仕事は順調?」  樹は花屋を経営している。  高校時代からだったが、美的センスがとびきりいい。自然の中に隠れた小さな輝きを見逃さない、天性の眼力だと思う。  からっとした純粋な笑みで。「順調。そうだ、この前さ、また告られたんだよ」と表情を遊ばせた。  その一言に少し驚いたが、喋り方からしていつものパターンだと推測する。いつになっても樹はモテる。理由は勿論、格好いいから。 「モテるね、やっぱり」  私の相づちに小恥ずかしそうに頭を掻いた。いつの間にか、私と樹は並んで立っている。街灯の下のベンチをゆったりと埋めて、あの頃のように会話をしている。  まるで夢のようだった。そうしてこの夢が夢であってほしくないと、我儘に心身(からだ)は言い張る。 「このみのほうは?」 「私? 私は相変わらずだよ。三年め」  三年め、とは赴任して三年めのこと。私は高校で司書教論をしている。いまいちぱっとしなくて、あの先生誰? ということが恒例だけど、この仕事は嫌いじゃない。 「似合ってる」 「ありがとう。って、なんか高校時代の樹とこんな話をしてるのって不思議な気分」  どうしてか、朝を越えても、再びここで会えるような気がしたのだ。
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