4人が本棚に入れています
本棚に追加
「久しぶり、か?」
首を傾げて、私よりも先に樹が挨拶をした。
「うん。……あれ、何で」
「何で、若返ってるんだ?」
樹の言葉に初めて、自分の姿が変化していることに気がついた。
お互いに確認したところ、姿は高校時代。ふと自分の手を見てみると、ああ、小さいしすべすべしていて納得する。
「うわ~なっつかし。夢の中で昔のこのみと会うってすげーな」
「夢にしては随分冴えてるんだけど……」
どちらの夢かは分からない。確か、夢の世界は精神の深いところで繋がっていると、何かの本で読んだ気がする。ということは、二人で夢をシェアしているのだろうか。
「だよなあ、気持ち悪い世界だもんな」
空を見上げる樹。
つられて見上げると、ゆっくりと、星が動いている――こういうのが苦手なのだ。
「起きたら忘れてたりするのかな?」
視線を樹に戻して、反応をうかがった。「なんか勿体ないな」と、少し残念そうに笑う。
「仕事は順調?」
樹は花屋を経営している。
高校時代からだったが、美的センスがとびきりいい。自然の中に隠れた小さな輝きを見逃さない、天性の眼力だと思う。
からっとした純粋な笑みで。「順調。そうだ、この前さ、また告られたんだよ」と表情を遊ばせた。
その一言に少し驚いたが、喋り方からしていつものパターンだと推測する。いつになっても樹はモテる。理由は勿論、格好いいから。
「モテるね、やっぱり」
私の相づちに小恥ずかしそうに頭を掻いた。いつの間にか、私と樹は並んで立っている。街灯の下のベンチをゆったりと埋めて、あの頃のように会話をしている。
まるで夢のようだった。そうしてこの夢が夢であってほしくないと、我儘に心身は言い張る。
「このみのほうは?」
「私? 私は相変わらずだよ。三年め」
三年め、とは赴任して三年めのこと。私は高校で司書教論をしている。いまいちぱっとしなくて、あの先生誰? ということが恒例だけど、この仕事は嫌いじゃない。
「似合ってる」
「ありがとう。って、なんか高校時代の樹とこんな話をしてるのって不思議な気分」
どうしてか、朝を越えても、再びここで会えるような気がしたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!