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そしてそのタイミングは不意に訪れる。
どこからか流れるオルゴールの音色。――――それは、記憶の奥底、もっともっと遠い"時"なのかもしれない。染み付いた本能のように、脳裏を夕焼けに回帰させる。
無意識に、私も樹も、終了の合図に会話を切った。
「俺らまた会える気がする」
「うん、私も」
――――突然に白んだ世界は、大陽の香りがした。
重たい瞼を開けると、無機質な天井の色が広がっている。そうして感じる、重力。
ぼさぼさと後頭部を掻いて、枕元の時計を見やる。
六時五十九分。アラームはいつも七時セット。気持ちが先走って起きてしまったのだろう。
アラームを解除して、しばらくぼうっと空を見つめる。
どうしてだろう、何か大切なことを忘れている気がする……。もやもやと渦巻く思考の糸を、丁寧に辿ってゆく。
そして断片が拙く形を成した。
「樹……」
独り、乾いた声で呟いた。
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