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「中二病かもしくは馬鹿のどちらかでしょうね。ワタシにむかってそんなアホ面で真面目に言うんですから!」
「人の家に勝手に上がり込んで……。警察呼びますよ」
私の脅しにも動じない。
募る苛立ちに、携帯電話を探す。ポケットから取り出したものの、電源が入らない。いくら長押ししてもうんともすんとも言わないのだ。
「そう急かないで、ゆっくりいきましょうよ」
「不審者の立場で何言ってるの、出てって」
そうきつく言うと、やれやれと首を振った。迷惑を被っているのはこっちだというのに、理不尽な結果である。
「夢を見たでしょう?」
え、と顔を上げると、どうやら目が合ったようだ。
「知ってるの?」
「え、何が? 何のこと?」
疑問に疑問を返されて訳がわからなくなった。
確かに彼は"夢"と言った。思い当たる節は一つしかない。どうしてあの夢のことを知っているのだろうか。
「夢を見たかって聞いたでしょ!」
「そうでしたっけ? ワタシが?」
いつまでしらを切るつもりだろうか。耐えきれなくなって、私はチューハイ『潤果』のチェリーをミニテーブルの上にずいと滑らせる。目線で語るも、奴は立ち上がった。
「んじゃお言葉に甘えて帰りますね」
飄々とした態度で善意をあしらうのだ。面倒くさい。
ここまで揚げ足を取られっぱなしだった。完全に主導権は握られている。
トリック・ルームとでも名付けよう。携帯の電源は一向に付かない。
奴の空間では不条理はとことん覆されるようである。
「はいはい、悪うございました。どうぞ話をうかがいましょう」
待ってましたとばかりにUターンでテーブルにつく。カーペットの上、互いに座り合うも…………耐えられる気がしない。
小さなテーブルを挟んで不審者と一杯とは、いかなるものだろう。
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」
プルタブを返すと、小気味のいい音が漏れた。
この瞬間が私にとって嗜好なのだ。帰宅し、少々のつまみと共にチューハイを開け、テレビを見ながらうとうとと微睡む……。だが今日の『潤果』のライムはどこか苦い。
「今宵のラッキーパーソンはアナタ、神田このみさん。ワタシは吉報を持ってやって来たんですよ」
アンラッキーパーソンの間違いだろう。
「あなた何者? 悪魔の類いじゃないの?」
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