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夏だというのにスーツを着たサンタが走ってこちらにやってくる。
そんなに慌てなくてもいいのに、と思って声をかけようとしたら、全く見向きもされず、どこかに走っていってしまった。まあそのうち戻ってくるだろうと思って二人は彼を暖かく見送る。
「何をそんなに急いでるんだろ?」
「俺たちが見えなかったのかな」
一応、駅前集合と言っておいた。そのうち戻ってくると思ったが、時間までは特に指定していなかったから、彼があんなに慌てているのが不思議だった。
「待て!!」
また、聞き覚えのある声だった。今度は
「浮葉さん」
蚊鳴屋が緊張した声で言った。
久しぶりに、ちゃんとした浮葉だ。
しかし彼もものすごく急いでいて、浮葉にしては猛烈な勢いで走ってくる。
「待て! そこの! ……その、なんだ……あなた! 待ってください!」
そして、二人の目の前をダッシュで通り過ぎた。……二人には全く気づかずに。
「なんか、二人とも、アリスみたいなこと言ってたね」
「これ不思議の国のアリスの導入だな」
「浮葉があんなに大きな声を出して走ってるのはじめて見たよ。普段ポコアポコって感じのおじさんなのに」
「ポコアポコおじさん」
しかし、どうしてサンタが慌ててどこかに向かって、それを浮葉が追っているのだろう。
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