【迷い猫】

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雨音とミシンの音に混じって、微かに猫の鳴き声がしました。 こんな大荒れの天気の中、どうしたのでしょう? その声は数秒の間こそ空きますが、断続的に続きます。 10分もすると流石に不安になりました。 雨に濡れて寒いのでしょうか? 雨が濁流のようになって流されてしまい、助けでも求めているのでしょうか? ──助けを。 私は慌てて立ち上がり、店のドアを開けました。 途端に鳴き声は大きくなり、キジトラの小さな猫が飛び込んできます。 子猫と言うには大きい、大人と言うには小さい、と言う感じでしょうか? 「にゃあ」 私の顔を見上げて、可愛らしい声で鳴きました。 「ふふ、雨宿りですか? よろしいですよ、ごゆっくりなさってください」 まるで言葉が判るようです、更に奥へ進み、ブルブルと体を震わせて水を弾き飛ばします。 「ああ、待って。拭いてあげましょう」 手近な端切れを手にして、彼の、いえ、彼女でしょうか?ともかく拭いてあげました。 それだけでは寒そうなので、住居となっている二階からドライヤーを持ってきて乾かしてあげました、意外と大人しくしているものです、何処かで飼われていたのでしょうか。 乾くとふわふわの可愛らしい猫がそこにいました。 「なにか飲みますか? 外でずぶ濡れになったのではいらないでしょうか……?」 平皿に水を入れて木張りの床に置いてやると、猫はクンクン匂いを嗅いでから、ペロペロと飲み始めました。 その様子は本当に可愛らしいです。 「なにか食べさせてあげたいですねえ……」 でもうちには猫用のご飯などありません。買いに行くにもこの雨では。 住居の棚や冷蔵庫に思いを巡らせてみましたが、やはり猫ちゃんが食べられる物はなさそうです。 「残念ですねぇ……」 水に夢中になっている猫の頭を指先で撫でていました、猫は顔を上げ私を見つめると、 「にゃあ」 可愛らしい声で答えます。
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