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水が終わると元気になったのか、店の中の偵察を始めました。
床をクンクンして、天井を見上げて、少し進んでキョロキョロして。
可愛らしいものですね。
この子からしたらどんな世界に見えるのか、興味があります。
尻尾を振りながら腰を落とします、ああ間合いを図っているのだな、と思っている間に、ぴょんと作業台に飛び上がりました。
「ああ、ここはダメですね」
お客様の大切な品物が乗るところです、やはり仕立屋では猫は飼えそうにありません。
猫を抱き上げ、床に下ろしました。
でも、どうも高いところは好きなようです、すぐにあちらこちらに上がってしまいます。
その様子は可愛く、私はやがて注意をやめていました。
猫が室内を物色する中、私は作業を始めました。
雨音とミシンの音、そして室内を歩き回る猫。
なかなか素敵な午後です。
「みゃーう」
猫が私の足に頭を擦り付けてきます。
「ふふ、可愛いですね。でも少しお仕事もしませんと」
指先で額を撫でて作業を続けていると、猫は私の膝に飛び乗りました。
「ええ……? 困りましたねえ……少しやり辛いですが……」
でも猫の重さと温もりがなんとも心地よいです。
無理矢理下ろす気持ちは、瞬時になくなっていました。
猫は私の膝で丸まり眠り始めます、そんな場所が寝心地がいいとは思えないのですが。
私は黙ってそのままでいました、落とさないように注意しながらミシンを操作します。
なんだか幸福な時間を過ごしています。
世には看板猫なるものもありますね。うちにもいたら商売繁盛となるでしょうか。
「──うちの子になりますか?」
視線を落として聞きましたが、返事はふるりと耳を動かしただけでした。
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