0人が本棚に入れています
本棚に追加
初めて見る五十嵐の姿に周りの女たちも不安げに見上げる。女たちは誰一人として圭吾がこの女性に惚れたとは思わなかった。五十嵐が本気にする相手などいるはずない。そう決めつけていた。
女性も困ったように五十嵐を見上げる。だが、一向に五十嵐から何かが発せられる気配はない。女性は気に触っただろうかと思い、周りの女の一人にブレスレットを渡した。
「では、私は急ぎますのでこれで」
女性が逃げるように去る。女性はあっという間に人混みに紛れ、五十嵐の視界から消えてしまった。
「圭吾様、これ……」
「……れよ……」
「えっ?」
「散れっつってんだよこのブスどもが!!」
「ちょっ、急になんなのよ!」
「二度とオレに近寄んじゃねぇよブス!」
「なにそれ! 酷いわ! もう知らない!」
女たちは次々と腹を立てその場を去っていく。女たちが今まで五十嵐に肯定されたことは一度たりともなかった。だがそれと同じく、否定されたこともなかった。これが五十嵐からの初めての否定であった。
そして、五十嵐にとっての初恋である。
最初のコメントを投稿しよう!