第一話 問題児

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 ちょうどその時、部屋にノックが響いた。生徒会室は基本的に二人しか使わず、他の生徒会役員は部活があったり、放課後は勉強したりと様々で集まるのは行事前後くらいだ。実はこの二人の間に関係があると考えているからでもあるのだが、それは勝手な思い込みだ。  はい、と薫が応えた頃には一瞬前の事が嘘のように美奈は椅子に座って生徒からの意見書類に目を通しているふりをしていた。どれもこれも部活の費用を上げてほしいだの、設備をよくしてほしいだの無理難題ばかりだ。  失礼します、と入ってきたのは風紀委員長の工藤美咲だった。クールビューティと称される彼女は普段から真面目で誰に対しても敬語なこともあり高嶺の花的イメージが強い。だが実は、熱烈な薫と美奈の信者である。 「どうかしたの?」 「こんな事で会長方のお手を煩わせるわけにはいかないと思ったのですが、私どもではどうも手に負えず」 「またアイツ?」 「はい」  アイツ、とはとある男子生徒のことだ。今までも何度も対処してきたが一向に改善は見られない。泣かされた女生徒は数しれず、男子生徒からの不満も一身に集める困った生徒である。さらに、薫が自分よりモテるのがムカつくと言い、突っかかってくる点でも大変困っていた。 「分かった。なんとかするわ。今どこにいるの?」 「二年四組の教室に。掃除当番から掃除ができないと苦情が入りまして」 「分かった。ありがとう」   失礼します、と丁寧にお辞儀をして出ていく工藤は大変好ましいが、今からの事を考えると薫から零れるのはため息だけであった。 「僕に彼の対処は無理だよ。火に油を注ぐだけだ」 「ハイハイ。弱音吐かないの。生徒会長様が対処出来ないで誰ができるっていうのよ」 「キミ」 「ほら、さっさと行くわよ」  ひどく顔を歪ませる薫を美奈は無理やり引っ張る。生徒会室から出るとなんとかやる気になったかのように見えたが、嫌々であるのは長年連れ添ってきた美奈にはバレバレだった。 「そうそう問題なんて起きないんだからこれが終わったら学校が終わったも同然よ。明日も遊びに行くんでしょ。これぐらい耐えなさいよ」 「それとこれとは話が別だよ」
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