第二話 それぞれの休日

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「圭吾様と休日に過ごせて幸せですぅ」 「ケーゴぉ。今日はどこ行くのぉ?」  美人の分類に入るだろう女性を三、四人侍らせ、街道の中心を闊歩する男はそれはそれは人目を引いた。歩道を占拠するように広がり、それぞれの女の主張するような香水が混ざり合い辺りへと漂う。羨望の眼差しなどではない。人々の目に映るのは明らかに嫌悪だ。男はその視線に舌打ちをする。  金も魅力もねぇ庶民が俺様をジロジロ見んじゃねぇよ。  キッと睨みつけられたカップルは逃げるようにその場を去る。その態度がまた気に食わない。彼、五十嵐財閥嫡男、五十嵐圭吾は他人が気に食わなかった。街にいるすべてを自分より身分の低いものと嘲笑い、その容姿と財力に寄ってくる女を物のように思っていた。すべてが馬鹿らしく、自らの手に入らないものは無い。本気でそう思っていた。 「お兄さん」  低く落ち着いた艶やかな声が耳に入った。庶民の分際で自分を呼び止めるとは有り得ない。身分を知らしめてやろうと舌打ちをして振り返った先にいた人物に五十嵐は息を飲んだ。  たいそう美しい天女のような女性がそこに居た。これ程美しい者は初めて見た。数多の女優やモデルたちも叶わない。世界で美しい女性。手に入れたいと思った。だが同時に、手に入らないとも思った。五十嵐にとっては初めての経験である。これが俗に言う、一目惚れ。恋である。 「お兄さん。これ、落とされましたよ」  女性の言葉にハッとした。その手には、確かに五十嵐ものであろうブレスレットが握られていた。  言葉が出なかった。女にかける言葉などいくらでもあるはずなのに何一つ出てこない。
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