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 目を覚ませ。  夜は等しく襲いかかる。そう、等しく。これは理なのだ。  混沌の中追い討ちをかけるように。時に理不尽に。  既に、純朴な彼らの敵となった。  君は――――どちらだ。まだ夜を歩いているのか。  その僅かな光を惜しまないのなら、どうかあの子を照らしてほしい。  君と同じように、この世界でさ迷っているはずだから。 *****  ふらつく足で商店街のゲートを見上げる。片仮名で表記された文字列は、ぼんやりとした灯りの中で同化し、べったりと赤錆が張りついたような色をしていた。  商店街を歩く。  私は二つの異変に気が付いていた。  薄暗い畦道をひたすらに歩いてきていたはずが、この商店街へ入った途端、夜の()()が変わったのだ。  ぼんやりと夕景が襲う。電信柱のメガホンから、オレンジ色のメロディーが流れ出す。そんな一日のエピローグを歩いていた――――ちょうど今のように。  行き交う人々は何やら満足そうな面持ちで、帰路をゆったりと急ぐ。急ぐのは、夜が来るから。  違いと言えば、ここには私しかいないということ、そして胃が痛くなるほどに静かだということ。  そしてもう一つ。ランタンの蝋燭が減らない。  不可思議な減少だった。永遠など有り得ないというのに、その灯りは悠久の中で輝く。その揺らめきは暖かいというのに、どこか悲しさもおぼえた。  十字路に行き当たる。たばこやのアナログ時計の短針は5、長針は27を指して沈黙していた。  ……いや、鼓動がある。彼の秒針は動いている。  小さな夕焼けが漏れ、店のガラス戸を(よぎ)った。  コツン。  小石の震える音。  ミィ ツ ケ タ ァ  ――――ようやく見えた彼女の表情は、酷く、笑顔に歪んでいた。  途端に世界は急速に時を刻み始めた。宛もなく闇が迷いこむ。  目の前の少女のおぼつかない瞳には、もともと光など無かったように思われる。はたまた、あの時の無邪気は幻想かもしれない。  真っ黒に二つ、艶やかに佇む眼光に、背筋は凍った。
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