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4
目を覚ませ。
夜は等しく襲いかかる。そう、等しく。これは理なのだ。
混沌の中追い討ちをかけるように。時に理不尽に。
既に、純朴な彼らの敵となった。
君は――――どちらだ。まだ夜を歩いているのか。
その僅かな光を惜しまないのなら、どうかあの子を照らしてほしい。
君と同じように、この世界でさ迷っているはずだから。
*****
ふらつく足で商店街のゲートを見上げる。片仮名で表記された文字列は、ぼんやりとした灯りの中で同化し、べったりと赤錆が張りついたような色をしていた。
商店街を歩く。
私は二つの異変に気が付いていた。
薄暗い畦道をひたすらに歩いてきていたはずが、この商店街へ入った途端、夜の種類が変わったのだ。
ぼんやりと夕景が襲う。電信柱のメガホンから、オレンジ色のメロディーが流れ出す。そんな一日のエピローグを歩いていた――――ちょうど今のように。
行き交う人々は何やら満足そうな面持ちで、帰路をゆったりと急ぐ。急ぐのは、夜が来るから。
違いと言えば、ここには私しかいないということ、そして胃が痛くなるほどに静かだということ。
そしてもう一つ。ランタンの蝋燭が減らない。
不可思議な減少だった。永遠など有り得ないというのに、その灯りは悠久の中で輝く。その揺らめきは暖かいというのに、どこか悲しさもおぼえた。
十字路に行き当たる。たばこやのアナログ時計の短針は5、長針は27を指して沈黙していた。
……いや、鼓動がある。彼の秒針は動いている。
小さな夕焼けが漏れ、店のガラス戸を過った。
コツン。
小石の震える音。
ミィ ツ ケ タ ァ
――――ようやく見えた彼女の表情は、酷く、笑顔に歪んでいた。
途端に世界は急速に時を刻み始めた。宛もなく闇が迷いこむ。
目の前の少女のおぼつかない瞳には、もともと光など無かったように思われる。はたまた、あの時の無邪気は幻想かもしれない。
真っ黒に二つ、艶やかに佇む眼光に、背筋は凍った。
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