5

1/2
前へ
/40ページ
次へ

5

 もういいかい――――――まあだだよ。  残暑の頃の夕暮れに、名もない跡地に集まった子供。どの顔もいきいきと映え、懸命に身を隠す。小さな心臓が壊れそうなほど鼓動を打つ。その独特の興奮が時間を埋めた。  最後まで隠れた。  最後まで隠れたのに。  みんなはもう帰ってしまう。まだ日が沈んでいないのに。  夏は終わっていた。みんな、オトナになっていた。 *****  後がない。  ハナとの距離は徐々に縮まってゆく。  取り残されてしまったのだ。喜び、希望に満ちていた彼女の時代に。ずっと一人で、まだあの夏を追いかけている。  友達は既に消えた。理由は様々に、虚しさだけが残っただろう。その虚しさに押し潰されないよう、ハナはこの世界で生きている。  強くランタンを握る。汗ばんだ手のひらは異常に冷たい。  私はまだ見つけていないのだ。ここでずっと、ハナと遊んでいることはできない。だからお別れだった。 「……ごめんね」  彼女は嬉々として腕を振る。喜びはもはや言葉にもならず半ば奇声となった。  走ってくる。走ってくる。走って。 「ァアアアァアァアアア――――」  黒になった。  それは待っていたように思えた。  静かに、音もなく。 『――――――――――』  瞼をそっと開いて驚く。  闇から現れたのは、あの社で出会った影だった。  寸前、影は(まばゆ)さに染まる。  夕闇を弾いて真っ白に輝く光。  希望と絶望の縁、そのほんの狭間の"(とき)"にすら飲み込まれない。何らかの強い意思を持って、光を放つもの。  あの子ははもういなかった。悲しそうに、顔を歪ませて消えていった。あの子に"もう一度"はないだろう。ようやくこの世界の先へ行くことができたのならば。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加