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6
風鈴が鳴る。蝉の声を背に、細くて高い、糸のような音をだす。暗い室内とは真逆に、青空と白い雲が明るかった。縁側から忍び込んだ涼風は、何処かの草と土の香りを残し、去っていった。
もう一度風鈴が聞こえる。
うっすらと開いた目に映る焦茶の天井。板目模様にシミが付いて、大きな絵のようにも見えた。曼陀羅という言葉が響きを残し、これもまた消えた。
私は寝ていた。枕にしていた座布団は固い。ざらざらとした畳の上の感覚に、懐かしさを覚える。
銀色の扇風機は、非常に少量の風を送っている。青い羽を至極緩やかに回して。横目に、ノートと鉛筆が無造作に転がっていた。数字が並んでいる。だが白紙だ。
天井に目を移すと、ぐにゃりと視界が歪んだ。そして元に戻り、また歪む。体が浮いたり沈んだり、不安定に揺れる。目を閉じているはずなのに、見える天井。やがて真っ黒な空間が広がり、無数の点が波紋を生む。顕微鏡を覗いたとき、似たような生き物を見かけた。
目のようで点のような、記号。無数の線が絡まって解れる。
幻覚だ。
あの頃には、既に私は幻覚を見ていたのだ。
*****
まぶたの裏に感じる、闇。外部の闇。 ぼうっとして目が覚めた。居眠りをしていたのだろうか。
相変わらず夕暮れだった。商店街の奥へどれだけ進もうと"時"は動かない。
自分が背後の電信柱に寄りかかっていた間、恐らく何もなかったように思われる。ランタンは足元にひっそりと置いてあった。
しかし――――異変に気がついた。ここは、私のいた商店街ではない。
『ちがう』という微量の違和感に至ったその瞬間。思考回路が矛盾にたどり着いた瞬間。
激しい、激しい頭痛が襲ってきた。
否応なしに視界は暗転する。後頭部、いや違う。全方向から痛みとともに強烈な信号を受ける。
解読不能。一次元と二次元で表された意味不明の紋様に脳は震える。数字、漢字、そして二者の混合した羅列が視界を埋めた。息が整わず、激しく咳き込んだ。その刺激で紋様は形を変える。
忘れていたはずの、あの痛みが戻ってきた。
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