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卵の殻のような真っ白い顔をした少女達がたくさん、一様に並んで走ってゆく。様々な色で拵えられたお気に入りのワンピースを着て。
「もうすぐサーカスが始まるよ」
はち切れそうなくらい大きな黒い瞳で言った。(或いは、ぐにぐにとはっきりしない声でそのように言った)
♪さあはじまるよ みんなのサーカス
わるいこもいいこも いらっしゃい
きょうもはじまるよ みんなのサーカス
いちどっきりの ゆかいなじかん
歌はまるで呪文のように、全員が声を揃える。その虚ろな笑みに導かれるように、自分もまた、足を運ぶ。
そうして、ここまでやって来たのだった。
ガラス越しに並ぶぬいぐるみや玩具。汽車、ロボット、ままごとで使う小さな人形――――あらゆるものが集う。皆、薄暗いままに時に捕まって動けないようだった。
自身の小さい頃の記憶によれば、この玩具屋はまあ様々な玩具を取り扱っており、二世紀も前のフランス人形やら、三世紀前の和人形が置いてあるらしかった。
当時、玩具などという高価な代物を買って貰える筈もなく、指を加えて通りすぎたものだが。
吸い込まれるようにして入っていったあの少女たちの言う、サーカスとは一体何なのだろうか。
半開きになっている木製の扉。金のドアノブは薄汚れてはいたが、洒落た造りである。
鈍く、ぎいと音が鳴った。途端に襲った埃っぽい臭いに顔をしかめた。店内はほのかに明るい。ロココ調に着飾ったランプが、暖かみのある光を放っていた。
誰もいない。
しかし何処かからか、クスクスと、少女の笑い声が漏れていた。ランタンを前に、ゆっくりと進む。
深い緑色をした扉。これもまた半開きに、私を待っている。
意を決し、ドアノブに手を掛けた、その時。
灯りが落ち、ひゅうと小さな風が吹き上げる。足元から、不思議な模様が蠢きだした。四角、三角――――規則的に組み上げられてゆく中、辺りを埋める少女たち。各々テーブルに座ってこちらを向いて笑っている。どうやら、お茶会らしい。
ようやく自分が見られていることに気が付くと、真っ白なライトが幾重にも当てられ、景色が眩んだ。
突然のことに狼狽え、拍手を聞いた。
少女たちの目線が、一つ後ろに移る。
「こんばんはお嬢さん。今宵のサーカスへようこそ」
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