7

1/2
前へ
/40ページ
次へ

7

 卵の殻のような真っ白い顔をした少女達がたくさん、一様に並んで走ってゆく。様々な色で拵えられたお気に入りのワンピースを着て。 「もうすぐサーカスが始まるよ」  はち切れそうなくらい大きな黒い瞳で言った。(或いは、ぐにぐにとはっきりしない声でそのように言った) ♪さあはじまるよ みんなのサーカス  わるいこもいいこも いらっしゃい  きょうもはじまるよ みんなのサーカス  いちどっきりの ゆかいなじかん  歌はまるで呪文のように、全員が声を揃える。その虚ろな笑みに導かれるように、自分もまた、足を運ぶ。  そうして、ここまでやって来たのだった。  ガラス越しに並ぶぬいぐるみや玩具。汽車、ロボット、ままごとで使う小さな人形――――あらゆるものが集う。皆、薄暗いままに時に捕まって動けないようだった。  自身の小さい頃の記憶によれば、この玩具(おもちゃ)屋はまあ様々な玩具を取り扱っており、二世紀も前のフランス人形やら、三世紀前の和人形が置いてあるらしかった。  当時、玩具などという高価な代物を買って貰える筈もなく、指を加えて通りすぎたものだが。  吸い込まれるようにして入っていったあの少女たちの言う、サーカスとは一体何なのだろうか。  半開きになっている木製の扉。金のドアノブは薄汚れてはいたが、洒落た造りである。  鈍く、ぎいと音が鳴った。途端に襲った埃っぽい臭いに顔をしかめた。店内はほのかに明るい。ロココ調に着飾ったランプが、暖かみのある光を放っていた。  誰もいない。  しかし何処かからか、クスクスと、少女の笑い声が漏れていた。ランタンを前に、ゆっくりと進む。  深い緑色をした扉。これもまた半開きに、私を待っている。  意を決し、ドアノブに手を掛けた、その時。  灯りが落ち、ひゅうと小さな風が吹き上げる。足元から、不思議な模様が蠢きだした。四角、三角――――規則的に組み上げられてゆく中、辺りを埋める少女たち。各々テーブルに座ってこちらを向いて笑っている。どうやら、お茶会らしい。  ようやく自分が見られていることに気が付くと、真っ白なライトが幾重にも当てられ、景色が眩んだ。  突然のことに狼狽(うろた)え、拍手を聞いた。  少女たちの目線が、一つ後ろに移る。 「こんばんはお嬢さん。今宵のサーカスへようこそ」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加