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 境内の玄関、鳥居をくぐった。  細い道路が左右に伸びている。その末端は闇に吸い込まれていて、果てしないように思われた。  自分の(わき)に、傘をかぶった街頭がのっそりと立っている。赤色の光には、羽の大きな虫たちが群がっていた。ぶつかっては落ちる。不思議なことに、地面には死骸は一つも見当たらない。  必死に、すがるように――――光を求めているのである。  カーブミラーにぼんやりと(うつ)る私は、やはり幼少時代のもので正解だった。髪が短い頃、すなわち夏の盛りの自分。そうなれば、ここが何処かということも、見当がついた。  そして同時に、この世界で見つけたものがある。  明らかに自分と違うのは、紙袋。その生き物は確かに人であったが、紙袋を(かぶ)っている。頭から、すっぽりと、首が見えるか見えないかくらいまで。背丈は同じくらい。  私は反射的に隠れた。電信柱の裏、彼が通りすぎるのを待つ。どくんどくんと、かくれんぼでもないのに鼓動が速まった。  悠々と歩くその姿に、何ら不自然さは無かった。というのは、"この町への彼自身の疑問"である。  見えているのか、慣れているのか、真っ直ぐに歩き去って行った。  恐怖を抑えるための勇気はその効果が切れると、再び戻ってくる保証は無い。言わば使い捨ての感情でそれゆえ不安定。  汗ばんだ両手で服を握る。良くないことが、コワイことが起こる、と、本能にも似た勘が働く。同時に世界が異常に大きく見えた。  右へ走った。  絶対に後ろは見ない。見たらいけない。とにかく走った。灯りを、少しでも明るい所を探す。途中何かを踏みつけた気がしたが、それも構わずに走った。  息があがって、ようやく耳に音が入る。目の前は踏切だった。この不協和音は、何歳(いつ)になっても人を引く。  震える膝に手をついて、ふと顔を上げた。    ひゅっ、と息を飲む。  踏切の真ん中。何かがいる。しかし点滅は止まらない。  見ている。  大きな目玉が二つあった。不定形を崩さぬままに沈黙していたが、汽笛を聞くや否やぐちゃぐちゃと蠢く。迫っているであろうモノから逃れようと、線路を越えようとしているのだろうか。  刹那叫声が飛んだ気がする。  鉄塊はそれを嗤って過ぎ去った。
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