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 街頭の微かな光が、再び踏切を照らした。支離滅裂に、飛び散った痕跡が反射する。頭の中では未だに不協和音が響鳴している。  茫然としている間にも遮断機は上がりきった。その頃には目玉も生き物も、何も残っていなかったのである。 「見てほしかったんだよ」と。聞いたのは穏やかな、柔らかい声色だった。  後ろを振り向くと、小さく声が漏れた。  目も鼻も口も分からない。紙袋によって意思疏通の一部は遮られていた。  自ずから視線を集め、回避する。覆面とは実に不思議なもの。 「君に見てほしかったんだよ」  「何を」と。久々に発した声は掠れていた。 「彼は悲しい事故にあった。それで失ったものがあるんだ」  少年が鞄から取り出したのは薄汚れた指輪。ゆっくりと線路に向かって歩き出す。 「自分の身体よりも、彼は指輪(これ)を探していたんだよ」  少年が指輪を投げ込んだ。多少無愛想に見えたが、放った左手を慈しむように下ろした。  ほぼ同時に、染み出すように現れる黒。目玉もない黒は、指輪を飲み込みそして消えた。  蒸し暑い。少し、怖さは退()いていた。  ここはどこ、私、死んだの? 溢れ出す質問は杯に収まらない。焦る自分に対し、少年は淡々と答えた。 「そんなの自分がよく知ってるだろう。ここは黄泉の国でも何でもないし、君もまだ生きているし」  話すべきだろうか。子供の姿に戻ったことや、この懐かしい町のことを。少年は四角い顔を向けた。 「君、名前は? 僕は(まこと)っていうんだけど」  私は端的に、下の名だけ言った。 「元の世界は何処にあるの?」 「さあ、それを見つけるんだろ。でも良かったね。探し物が見つかってさ」  笑っているのだろうか。ただ声は穏やかだ。  思い出したように鞄に手を突っ込み、がさごそと何かを掴んで取り出す。手渡されたのは、金属の取手の着いたランタンだった。  マッチ箱とともに私に差し出した。 「灯りは大切なんだ。ここは暗いから」  そう残して、少年――真は背を向け歩き出す。  「また会えるかな」私はその背に声を飛ばした。  うん、と言っていたようないなかったような、曖昧な返事は、彼と共に闇に溶けていった。  背後。音もなく、滑るように電車が通りすぎていた。  車内は真っ暗に、その存在は踏切にさえもまるで捕らえられていない。
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