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「かくれんぼしよ! あたしがオニね!」
公園に着くや否や、ハナはかくれんぼへと誘った。彼女に、私の意思は全く反映されない。まるで一人で遊んでいるようにも見える。
戸惑う私には一瞥もくれず、数えが始まった。
いち、にい、さん……幼げな声が響く。私が隠れ場所に選んだのは、トイレ小屋の後ろ。幼子にとって程よい難易度とは難しいものである。
この緊張感は嫌いだった。そもそも、自分の小さい頃、かくれんぼをして遊んだことはあまり無い。独りっ子故なかなか友達もできず、従って群れることは苦手分野だったから。
夏を、一人探検した。自分が隊長で、未開の地を切り開くように。……そうして、あのはじまりの社へと辿り着いた。
また少し思い出した気がする。
「何かお探しかい?」
俯いていた私に、声がかかった。
驚くもそれは眼前には居らず、宙にいた。小さな身体に、長い髪。幾分か、暗闇に溶け込んでいる。
即ち、この世界の不確かな存在。嘲るような瞳に、ハナとは違う無邪気さが窺える。
「あなたは……」
「オイラ? オイラのこと? 何に見える?」
けけけ、と笑う。あまりにも突飛な出会いに、頭が混乱する。
「それ以上でも以下でもない。君が思うように思えばいい」
もーいーかーい、と、開始の合図が響いた。
必死だねぇ……と他人事のような呟きに、私は思いきって尋ねた。いや、尋ねるべき存在であると、直感的に動かされたのだ。
「この世界のことを教えて」
そう口にすると微かに笑った。
「まだ分からないのかい? この世界の役割が」
ちらりとハナの方を見やる。
紛れもない、純粋に満ちた子供の姿だった。
「このままじゃ、あの子は一生この世界で生きることになるだろうね」
「何言ってるの……。私には、ハナは楽しそうに見えるけど」
「幸せだろうね。遊んでいれば日が暮れるんだもの」
私に同意するでもなく、また否定するでもなく言い放つ。
「でもここは、この世界は――――――」
日暮れ。息を潜める者の時間。
「ご明察。そう、もう夜なんだよ」
楽しい時間もここまでだった。
もっともっと遊びたい。嫌なことも忘れて遊んでいたい。そう乞い願うのは、子供もオトナもおんなじだ。
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