のびあがり

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のびあがり

 越奥(えつおう)街道ってのがあるんですがね。その道中にポツンとあるのがあっしの茶屋なんですよ。  便利な場所といえばそうなんですが、なにせ森やら沼やらばっかりの、どえらい不気味な場所でね。しかも街道は、道中ゆっくり気を休められるのがうちくらいしかない。だからまあ、寂れてると言われちゃ何も文句言えないようなところなんでさあ。 「へえ、それで一人旅を。中々キモが据わったお人とみた」 「よしてくれよ。ただのらりくらりと何とかなってるだけなんだから」  それでも、今みたいに、日に何人かはお客さんが来てくださる。お客さんは皆不気味な街道を抜けて来てやすから、少しでも元気をって具合に、茶と菓子、あと他愛ない話でもてなす。これがあっしの日常。  今縁台に座ってるお客さんは、若い娘さん。旅をしているそうだが、その経緯が中々面白くてね。ついつい長話をしちまってた。  あまり話に花を咲かせてると、日暮れはすーぐきちまうから、いい塩梅で話を終わりにして、娘さんを送り出す。  笠をつけて歩いていく娘さんを、背中が見えなくなるまで見送れば、仕事は全てお仕舞。 「あ、あの」  お? どうしたんだ?     
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