手長の目

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 いつ掏られたかってのは全然気が付かなかったんですがね、勘というか、気配というか、それに賭けて声をかけたんでさぁ。  それに、やっぱりこの女の人にはなんかが引っかかる。 「気づかれてしまいましたね……。矢張り出立するのはもう少し後にしましょう」  そういって、彼女は縁台に座ったんですよ。  一緒に、あっしから掏ったお金を差し出してきた。  やるとは言いやしたが、本人にその気がないならば、素直に返してもらいやした。 「これを、見てください」  彼女、言いながら手の包帯を外したんですよ。  その下に隠されてたのは、何と目玉だった。さらに着物の袖をまくり上げて腕を露わにしたんですが、そこにも無数の目がくっついてた。 「あんた、銭に祟られたのかい」  どう見ても鳥目の念が憑いた奴でしたね。  女は良くわからねえみたいで、目を伏せるだけ。 「盗みをする輩、つまり手長の腕には、銭……鳥目が祟って目をつけるんだ。祟り目ってやつでさぁ」  説明すると女は罪悪感を浮かべやした。 「私の過去も、聞いて頂けないでしょうか」 ――  女がどこかで給仕をしてたってのは、店に来てすぐに聞いていやしたが、給仕を辞めてから今まで、彼女はとんでもない苦労をしてきたらしいんでさぁ。  それで掏摸に手を染めたんだとか。     
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