3人が本棚に入れています
本棚に追加
いつ掏られたかってのは全然気が付かなかったんですがね、勘というか、気配というか、それに賭けて声をかけたんでさぁ。
それに、やっぱりこの女の人にはなんかが引っかかる。
「気づかれてしまいましたね……。矢張り出立するのはもう少し後にしましょう」
そういって、彼女は縁台に座ったんですよ。
一緒に、あっしから掏ったお金を差し出してきた。
やるとは言いやしたが、本人にその気がないならば、素直に返してもらいやした。
「これを、見てください」
彼女、言いながら手の包帯を外したんですよ。
その下に隠されてたのは、何と目玉だった。さらに着物の袖をまくり上げて腕を露わにしたんですが、そこにも無数の目がくっついてた。
「あんた、銭に祟られたのかい」
どう見ても鳥目の念が憑いた奴でしたね。
女は良くわからねえみたいで、目を伏せるだけ。
「盗みをする輩、つまり手長の腕には、銭……鳥目が祟って目をつけるんだ。祟り目ってやつでさぁ」
説明すると女は罪悪感を浮かべやした。
「私の過去も、聞いて頂けないでしょうか」
――
女がどこかで給仕をしてたってのは、店に来てすぐに聞いていやしたが、給仕を辞めてから今まで、彼女はとんでもない苦労をしてきたらしいんでさぁ。
それで掏摸に手を染めたんだとか。
最初のコメントを投稿しよう!