手長の目

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 でも今は上質な着物を着てる。そこを尋ねると、どうやら今ではそのくらいには持ち直してて、でも掏摸がやめられなくなってる、って感じのようで。 「私は、かつての自分に重くのしかかられているのです。今の自分は、過去の自分のようになることはできない。だから、かつての自分のような人を見ると、仕返しをするように、懐を探ってしまうのです」  女はそう締めくくりやした。  一人のお客さんに深入りするってのは、あまり好きじゃないんですよ。でもこの場合は、話が別。 「そうなった人を、ドドメキっていいやしてね……。キは鬼のキ、つまり、バケモノの仲間なんでさぁ」  自分でも、中々冷徹な言葉だと思いやす。でもバケモノを人に戻すには、まずこっから始めなきゃいけないんですよ。  案の定、といったら可哀想かもしれねえが、彼女は悲痛な顔を手で覆いやした。 「心の隅で、そう思っていました。他の人に手すら見せられないなんて、化生と何が違うのかと……」  彼女だけが何も特別じゃあねえんでさぁ。人なのかバケモノなのかわからなくなってるようなのは、意外とどこにでもいるんですよ。 「それを認めなきゃ、人に戻ることもできねぇんですよ。だから裏を返せば、今のあんたは一寸だけ人に近づいたってことなんでさぁ。あっしにできるのはここまで。あとは自分の力でなんとかするってことになりやす」     
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