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「あんたさんの名前を、聞いてもいいかい? また会った時、覚えてたいからさ」
そういうことかい。
こういうことは、意外とよくあるんでさあ。
「あっしは、紫虎っていいやす」
自分で言うのもなんなんですが、あんまり見かけない名前で、すぐに覚えてもらえるってのは、商売人として得ってもんでしてね。
娘さんは、軽く会釈して去っていきやした。
とまあこういうことを繰り返して、あっしはここで毎日やっていってるんですがね。たまぁに普通じゃないこともある。というかこの場所、普通じゃないことばかりなんですよ。
「お……おい! 誰か!」
どうやらその類いが出たようで。
「どうしやした?」
駆け込んできたのは、若い旦那。顔を青ざめさせて、大慌てのご様子。
息を整える暇もねぇみたいだ。
「バ、バケモンが!」
やっぱり。
この辺り、風景だけじゃなく本当に気味の悪いことばかりで、お化けとか、バケモノとかいったものがぞろぞろ出るっていわくがありましてねぇ。
旦那の話を聞いてみたが、どうも混乱しちまってるようで要領を得ない。
近くで何かに出くわして、思わず逃げてきたってぇのはわかるが、それより詳しいことがさっぱり。
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