3人が本棚に入れています
本棚に追加
のびあがり
越奥(えつおう)街道ってのがあるんですがね。その道中にポツンとあるのがあっしの茶屋なんですよ。
便利な場所といえばそうなんですが、なにせ森やら沼やらばっかりの、どえらい不気味な場所でね。しかも街道は、道中ゆっくり気を休められるのがうちくらいしかない。だからまあ、寂れてると言われちゃ何も文句言えないようなところなんでさあ。
「へえ、それで一人旅を。中々キモが据わったお人とみた」
「よしてくれよ。ただのらりくらりと何とかなってるだけなんだから」
それでも、今みたいに、日に何人かはお客さんが来てくださる。お客さんは皆不気味な街道を抜けて来てやすから、少しでも元気をって具合に、茶と菓子、あと他愛ない話でもてなす。これがあっしの日常。
今縁台に座ってるお客さんは、若い娘さん。旅をしているそうだが、その経緯が中々面白くてね。ついつい長話をしちまってた。
あまり話に花を咲かせてると、日暮れはすーぐきちまうから、いい塩梅で話を終わりにして、娘さんを送り出す。
笠をつけて歩いていく娘さんを、背中が見えなくなるまで見送れば、仕事は全てお仕舞。
「あ、あの」
お? どうしたんだ?
最初のコメントを投稿しよう!