ノートの切れ端、待ち合わせ

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 ――と。 【来い】  見えたのは、紙の中央に、たったそれだけの文字だった。しかもそれは、彼の気持ちの表れなのか、有無を言わせぬ命令形なのに、字がやたらと小さく弱々しい。  百井君が実際にどんな字を書くのか、まだ見たことがないわたしにはわからないけれど。でもある意味、百井君らしいというか、半周回ってらしくないというか……。  けれど、頭の回転が一周する頃には、それがかえって〝やっぱり百井君らしいな〟と思うようになっていた。ノートの切れ端に書かれた【来い】の二文字だけで、昼休みから続いていた胸のザワザワがすーっと軽くなっていくのだから、百井君から受ける効果は、いろんな意味でわたしの心に影響を与えるらしい。 【言われなくても】  彼の字の下に返事を書き、くしゃりと丸めて投げ返す。すぐに小さく紙を開く音がして。その乾いた音に、わたしはしばらくクスクス笑ってしまった。  わたしが百井くんと関わりたい理由はなんだろう。  放課後、クラスのみんながそれぞれの部活に向かう中、わたしも旧校舎の美術室へ向かう準備を進めながら、ふとそんなことを思った。  亜瑚が言ったように同情? それとも、何か別のもの?  けれど同時に、百井君と関わるのにきちんとした理由が必要なのかなとも思った。  それなら、今はまだ〝友達(仮)〟くらいでいいや。【来い】って百井君が呼んでくれている。それだけで嬉しくて笑ってしまえるんだから。
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