意地っ張りと、絵のモデル

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「あとはカーテンだけかなぁ」  美術室の中をひととおり見回したわたしは、誰に言うでもなく、そう呟いた。  いつもの放課後、いつもの美術室。  ただいつもと違うのは、すすけてチョコレート色になっているカーテンを洗濯したら百井君とここの掃除をすることもなくなってしまうんだな、ということ。  それはつまり、美術室でのおしゃべりも終わってしまうことを意味していて。 「ちょっと寂しいなぁ、さすがに……」  チョコレート色のカーテンの裾を意味もなく振りながら、長いため息をついた。  この三週間、放課後は毎日、百井君と一緒にいたから、明日からはなにも接点がなくなってしまうことが、今になってもなかなかしっくりこない。写真部以上に部活をしているみたいで楽しかったし、充実していたと言っていい時間だった。それに百井君は、この美術室でなら、わりと素直に自分の話をしてくれる。  例えば、家は美容室をしているとか、好きな食べ物は肉全般だとか。  聞いたところ、百井君から香る甘い桃のような香りは、どうやら美容室で使っている整髪料の匂いらしい。肉全般が好物なのも、体格を見れば頷けるというもので、食べ盛りの男子高校生らしい一答に「だよね」と深く共感したのは記憶に新しい。
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