恋になったら、こっちを向いて。

意地っ張りと、絵のモデル

　それから約三週間。

　もはや百井君の私室と化した美術室の掃除は、ついに終わりが見えてきた。

　放課後の時間を使い、ふたりで地道に片付けた室内は、すっかり埃っぽさも解消され、十数年のブランクを経て、ようやく元の姿を取り戻しつつある。

　壁にうず高く積まれた壊れかけの机や椅子。その隙間にはめ込むように、元美術部員の先輩方が残していった〝作品〟という名の負の遺産の数々が、雑多に、でもそれなりに見栄えもしつつ、先鋭的な装いを持ってインテリアされている。

　石膏の像だったり、なんだかよくわからない木の彫刻だったり、大小さまざまなサイズの油絵や水彩画、デッサン画だけのもの。ところどころ欠けていたり、ぱっくりと半分に割れている湯呑み茶碗やお皿は、今も現役で働いている焼き窯で焼いたものだろう。そんな多種多様な美術品が、所狭しと飾られている。

　そんな中、真新しいものが三つ、美術室に運び込まれた。

　やはり百井君はここで絵を描くつもりらしく、まっさらなキャンバスと、それを立てかけるためのイーゼル、丸椅子の三つが美術室の中央に置かれ、夕日に包まれながら早く絵を描いてくれと言わんばかりにその存在を主張しているのだ。