キミとの幸せだけを願っています

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「夢じゃない」 最近、目覚めてまず発する一発目のセリフはこれに定着してきている。 幸せボケ? 大いに結構。だって、幸せボケですもん。 「いい天気…」 カーテンを開ければ、川沿いの桜の木から舞い散る無数の花びらが目に入る。 四月四日。 絶好の引越し日和。 引越し業者が入るのは十時。朝ご飯は抜いて、タオルケットやカーテンを急いで段ボールに仕舞いこむ。 肌寒さは残るのに、日差しだけは強いから、日焼け止めは念入りに塗る。家族以外、知り合いに会う予定もないので薄化粧。 ほどなくして、引越し業者が部屋から全ての荷物を運び出す。管理人さんのチェックのため立会いをして、昼過ぎには広島駅に向かった。 年度を新しくして、再び東京本社での勤務が決まった。 新幹線で約四時間。半年間、一度も帰ってこなかった東京の地を踏む。 とにかく早く東京に帰りたくて、必死で頑張った半年間。広島への異動が業績等関係ないものだったとしても、成果さえ出せば東京に帰れるはずだと信じて疑わなかった。 藤次郎が、頑張る、と言ってくれたから。 「ただい…」 「おかえりなさい!」 玄関を開ききる前に、満面の笑顔で迎え入れてくれる母親。 ほっとする。あたし、帰ってきたんだなあ。 「ただいま。ごめんね、一度も帰らなくて」 「いいから、いいから。早く準備して」 「え?」 「晩ご飯、六人で食べようって、明人がお店予約してくれてるから!」 言うが早いか、あたしの手を引いてリビングへと連れていく母親。 「ちょっとフォーマルなお店なんだって。明人、楽しみにしすぎてはりきっちゃったのねー」 テレビ横のハンガーには、友達の披露宴以来着ていないカクテルドレスが、クリーニングから返ってきた状態でかけられていた。
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