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 ベランダに座る彼を後ろから抱きしめて左腕を回す。右手の手のひらで彼の目元をそっと覆った。 「もう見なくていい。一人で見なくていいから。今度は俺が一緒に見るから」  彼の肩がわずかに震えた。 「君を哀しませるものは見ないで。何も、何も見ないで」 「……」 「何も……見ないで」  俺だけを見て。本当はそう続けたかったけれど俺は言えなかった。  彼の右手が俺の右手に重なる。力が込められて重なった右手は目元から下に降りた。ゆっくり俺の腕の中で彼の身体が反転する。  両頬に手のひらが 伸びてきて優しく包まれた。彼は微笑んでいる。柔らかく、優しく、輝くように。  今なら言っていいだろうか。答えてくれるだろうか。 「君を好きになってもいいの?」  彼の目尻が下がったあと、一筋の涙が零れ落ちた。もう一度、もう一度言おう。ちゃんと言わなくちゃ。 「君を好きに」  俺が言えたのはそこまでだった。唇が重なってそれ以上言葉を継ぐことができなかったから。ゆっくり離れていく彼の顔を見るしかできない俺は、抱きしめるように自分の頬を包んでいる彼の手に自分の手を重ねる。  睫が涙でキラキラ光っている。やっぱりこの人は綺麗だと思う。  もう一度、彼は微笑んだ。輝くように、美しく、そして包み込むように。唇がゆっくり動く。 「君を好きになってもいいの?」  ありったけの力をこめて抱きしめる。かたく閉じた瞼の奥にどんどん涙が溜まって、どんなに力をいれても目尻から零れてしまう。  でもいい……零れたっていい。俺の気持ちと一緒で、もう零れてもいいんだ。頭も心も身体ももう全部零れていい。  だから最後にもう一度。好きですと言う気持ちをこめて、もう一度言おう。 「君を好きになってもいいの?」 END
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