#3

3/3
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 その日を境に俺は恋人とは言えないけれど友達以上だと思える存在を得た。週末を一緒にすごし、DVDを見る。ポツポツと話をしてビールを飲む。セイコーマートで買ったワインを手土産にすることもある。  転勤してきた俺は知り合いをつくる術がなく、毎週末ごとに彼の家を訪れていれば交友関係が広まっていくはずがない。  でも満足だった。ゆったりとした時間が流れる週末は、平日の慌ただしく時間に追われるものとは違った。テレビの前で映っている番組をなんとなく見てビールを飲む夜とも違う。  ただ……今のように彼が月を見上げている姿は見たくない。  何故あの日、三角公園で涙を流していたのか。それを少しだけ話してくれた。彼には付き合っている相手がいた。その男は、これから先の将来を見越して人生の方向性を決めた。結婚して子供をつくり父親の経営する会社を継ぐというビジョンを実行に移すことにしたらしい。 『結婚しても関係を続けよう。そう言われるよりはずっとマシ。別れようのほうがずっとマシ』そう打ち明けてくれた彼は、どっちを言われてもちっともマシとはいえない……そんな表情を浮かべていた。  彼の元彼さんは星が好きな男だったらしい。よく夜空を眺めていたと聞けば、こうやってベランダに座る彼を穏やかに見ることは出来ない。  彼をみながら出逢いの日に想いを馳せてしまうのは、あの日の選択でよかったのかと自問自答するためだ。何度も繰り返した自問自答。浮かぶのは「同じ星を眺めて、まだあの人と繋がっているつもり?」そんな答え。  まだあの人のことを好きなの?本当はそう聞きたいのに聞けない。だから彼の答えを貰えない。僕を見てふわりと笑うから言葉にできない。 「君を好きになってもいいの?」  俺の問いに彼はいつも同じ表情を浮かべる。寂しげに何かを諦めたような微笑み。  そして君はなにも言葉にしない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!