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荒い呼吸を収めようと仰向けに寝転んだ俺の身体に彼の腕が絡みつく。ドクドク脈打つ心臓の上に手のひらを置いてクスリと笑う。
「ドキドキしているね」
「うん。ドキドキしてるよ」
「知ってる?」
「なにを?」
「誰かの代わりにしてセックスをしてもね、代わりにはならないってこと。目をつぶって耳を塞いで頭の中を想像で一杯にしてもね、代わりにはならないんだ」
脈打つ心臓が血液を送る動作を緩めるほど、言われた言葉は俺にダメージを与えた。熱く汗ばんだ肌が冷え鳥肌が立つ。
彼はゆっくり起き上がり、俺の腹の上にまたがった。白く泡立ったローションが彼から俺の腹に移る。ヌルリとする感触、彼の尻の下で潰れているモノは完全に萎えきった。
「違うよ、違う」
「……なにが?」
「僕が言いたかったのはね、君は君なんだってこと」
「俺は俺だよ?他の誰でもない」
「そういうこと、君は君。僕は君に抱かれている。他の誰でもない、君だから抱かれている」
そしてふわりと笑った。いつもの寂しい笑顔とは何かが違うそんな微笑み。
「もっとちゃんと言って」
彼は「ふ・ふ・ふ」と少しふざけたように声にしてまた笑った。目尻をさげてニッコリ笑ったから、もっと近くで見たくなって身体ごと引きよせる。
首筋から彼の匂いが漂い、その匂ごと彼の身体を力いっぱい抱きしめた。
君を好きになっていいの?夏が……通り過ぎていく。
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