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 お盆が過ぎたら秋がくる。そう聞かされて8月半ばで夏が終わるはずがないとタカをくくっていたら本当だった。あと二か月もすれば雪が降ると脅されて憂鬱になる。冬の備えというものを本気で考えなくてはならない。  俺達の関係はまだ続いている。後退はしていない。  夏の終わりに彼が少しだけ言ってくれた言葉で俺は安心した。「君だから」と言ってくれた。でも相変わらず空を眺めることを止めようとしない。 「寒くないの?」 「そうだね、少し寒いね」  空から俺に視線を戻して同意をくれた。 「風邪をひいてしまうよ?」 「今日はありがとう」  お礼を言われるほどのことでもない。勤め先でよろけた時に咄嗟に掴んだイスがぐるんと回転して手首を捻ったらしい。だから夕飯は俺が簡単なパスタを作った。でもお礼を言われるのは悪くない。彼のために自分がしたことを喜んでくれているということだから。 「明日も来るよ」 「助かるよ」  そしてまた空を見上げる。心の中に残る想い出やあの人のことをわざと引っ張りだして自分を苛めているのだろうか。それをしても哀しくなくなったら俺の問いかけに応えられる、そんなふうに考えている……ふいにそんな事が頭に浮かんだ。  引っ張り出すにいいだけ引っ張り出して、心の中から全部消えてしまえば俺に向き合える。そんな悲しい作業をしているの?その確信めいた想いは俺を立ち上がらせた。
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