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 信号が青に変わり、俺は一歩一歩彼に近づく。やめればいいのにと言う頭をふりきり、いつもよりドキドキする心臓を抱えて距離を詰める。公園の敷地内に入った頃には二つの缶のせいで手のひらがチリチリしていた。 「あの……」  間抜けな問い掛けが空気に消えていく。  ゆっくり真上から視線を俺に向けた彼の目にはもう涙はなかった。ホッとしたようなガッガリしたような複雑さを消化できないまま缶コーヒーを左手に取る。右手でコーンポタージュの缶を彼に突きだして言った。 「これどうぞ」  さっきと同じだ。バイト君に変人扱いされたことを思い出しながら、彼の凝視を受け止める。今自分はどんな顔をしているのだろう。 「コーンポタージュ?」 「粒入りです。絶対缶の底に何粒か残る」 「それを僕に?」 「ええ、君に」  彼は缶を受け取りあっさりプルを引っ張った。俺も同じように栓をあけ温かいコーヒーを飲む。ホットになるとどうしても缶臭い味になるなと、どうでもいいことを考えながら黙々とポタージュを飲む彼を盗み見る。涙の名残で少しだけ赤い目元は薄く開けられて道路の先を見詰めていた。飲み切ったあと缶を振る。 「本当だね。残ってる」  コーンの粒が缶にあたる僅かな音。 「コンビニで缶を捨てましょう」 「うん。そして僕の家に行こう」  そう言われたことに驚いた。あまりに予想していない言葉だったので思考が止まる。そんなことを言われたことも言った事もない俺には対処する準備も知識もなかった。  そしてよせばいいのに言ってしまう自分。 「お邪魔します」  ようやく彼が微笑んだ。
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