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聖夜に叶う(ほのぼの?)
サンタさんへ。
プレゼントはかぞくをください。
かぞくがほしいです。
何年も前の、子供の頃のお願い事。
孤児院で育って、家族の居なかった私は、毎年こんな願い事を書いていた。
皆がゲームやお人形が欲しいと書く中、私は家族が欲しいと書いて、孤児院のスタッフに私達が家族よと、よく慰められたものだ。
歳が上がるにつれて、サンタの存在も信じなくなって、願い事も現実的になっていった。
文房具だとか、流行りのキャラ物の何かだとか、スタッフの人達が手に入れやすいものを書いていた。
そんな私も今では成人して、社会人をしながら一人暮らし。
幸いな事に、私の過去を知った上で交際してくれている恋人も居る。
恵まれた生活をしていても、クリスマスになる度に思い出すのだから、滑稽だ。
「子供の頃、プレゼントは何をお願いしてた?」
と、恋人に聞かれたことがある。
私は正直に、冗談めかして家族と答えた。
彼は、私らしいと笑っていたっけ。
「お待たせ」
クリスマスのこの日、彼と待ち合わせをした。
毎年のクリスマスは、一緒に過ごしている。
彼の両親とも会ったことがあって、毎年、イブかクリスマスのどちらかを彼の両親と、どちらかを彼と二人で過ごすことにした。
今年のクリスマスは、彼の両親と過ごす。
「あなたのお父さんとお母さんのプレゼントこれでいいかな……?」
彼のお父さんは現役のサラリーマンだからネクタイを、お母さんの方はお花が好きだからドライフラワーのリース。
「絶対喜ぶと思うよ!」
「良かった」
私には父も母も居ないから、こうしてプレゼントを選ぶのは楽しい。
喜んでくれるのも嬉しい。
「こんばんはー。お邪魔します」
「あらあら、いらっしゃい!待ってたわよー!ほら上がって上がって!」
彼のお母さんは、いつも彼よりも先に私に声をかけて、私を先に座らせてくれる。
彼いわく、娘を欲しがっていたからだと。
「よく来たね。待っていたよ」
「こんばんは。いつもありがとうございます」
「今日は腕を奮って作ったご馳走よー!」
「わあ!美味しそう!」
「母さん、俺だけなら絶対こんなご馳走作らないだろ」
賑やかな食卓。
私の憧れた食卓。
クリスマスの日に、こんな団欒を与えてもらえるなんて、何て幸せなのだろうか。
幼い頃の願いが叶った気がする。
「そうだ。これ、プレゼントです」
二人に差し出すと、とても喜んでくれた。
「母さん、私はこれから毎日このネクタイを着けていくぞ」
「まあ!それがいいわ!私もこれはお部屋に飾って毎日眺めることにする!」
毎年、プレゼントを渡すとこんな風に喜んでくれて、ずっと大切に使ってくれている。
去年渡したハーバリウムも、リビングの居間に誇りを被ることなく綺麗なまま置かれている。
「……父さん、母さん。俺からのプレゼントは彼女だ」
彼の唐突な言葉に、私もご両親も目を丸くした。
「俺と、結婚してほしい。そして、俺の家族になってほしいし、父さんと母さんの娘になってほしい」
「え、あの……」
「まあまあまあ!ああ、何てこと!こんなおめでたくて嬉しい日はないわ!」
「私は彼女なら大歓迎だ」
事態の飲み込めてない私に、彼は駄目かなと問い掛けてきた。
「う、ううん!とても嬉しい!」
「良かった……!」
「早く!早く籍を入れて頂戴ね?!ああ、この子が私の娘だなんて!早く正式に娘だって自慢したいわ!もうあなたは私達の娘よ!」
「母さん、急かしてはいけないよ」
こんなに、ご両親も喜んでくれるなんて。
「こんな嬉しいプレゼントを息子から貰ったなんて初めて!」
「心外だなあ」
「今日からは、私達のことはお父さんお母さんと呼んでくれていいからね」
「は、はい……!」
サンタなんて居ないと思ってた。
願い事なんて叶わないって。
叶うことなんかないんだって。
そう思ってた。
私が子供の頃からずっと、何よりも望んでいた欲しかったものが。
今、目の前にあって、それが叶った。
聖夜に叶う
(サンタさん、お願い事聞いてくれてありがとう)
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