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〓天体編1章.
西暦3000年、人類は遂に太陽系外への進出を開始した。前世紀に開発された人体の粒体化技術は人類の迅速なる宇宙進出を可能にし、今や全人類が外宇宙へと進出できる態勢が整いつつあった。宇宙開拓の先遣隊として火星を出発したS.S.01は太陽系に最も近い恒星系プロキシマケンタウリを経て地球以外で人類生存可能な惑星"トラピスト1x"に到達した。物語はこの惑星より始まる。
その頂が大気圏より突き出ていると云われるテーブルマウンテンの雄大な裾野が北から南になだらかに延びている。上方ではテーブル状の山頂に着陸しようとする無数の宇宙艦の灯火が輝き、下方ではその裾野に広がる夥しい居住区画の明かりが止めどなく瞬いている。その巨大な山塊の裾野の尽きる所に、円周状の長大な防護壁に囲われた都市があった。一つの行政区画が台形状であるためにトラペゾイドエリアと呼ばれるそこにクイエーは住んでいた。彼はこの区画に居住するごく普通の少年だった。ごく普通の、といってもそれは彼の性格に関してであり、彼の背は特異な円筒状の物体と電算容体を背負っている異様なものだった。この時代の人類の体は粒体により形成されており21世紀の人類とはその人体構造が異なっていた。とは言え粒体は見た目自体は只の人間同様であり、クイエーのような異様な物体を持つものはいなかった。その他者との異質性がクイエーを寡黙な物思いにふける少年へと成長させた。確かに道で擦れ違った幼女が面白がってこの電算容体にしがみついてくるようなある意味オイシイこともあったが、大半は友人達からのからかいと冷やかしであった。そんなクイエーは昼夜構わずこの都市のあちこちを一人で探索するのが好きだった。知らない区画を独り歩きながら自分の心に問いかけ考えを纏めるのが彼には心地好いことだった。内部に幹線交通網の走る巨大な防護壁、多数の高架が複雑に交じり合う連結エリア、断層の渓谷の壁面を埋め尽くす工業区画、目映い光が迸る高層建造物群、天に届くような山体を埋め尽くすあの居住区画でさえクイエーの訪れた場所だった。行ったことの無い場所は無いくらいであった。
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