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「おい、ゲン! これ以上大気圏に侵入するつもりか!」
地球圏連合軍中島隼人少尉は迷っていた。久坂玄少尉との最新鋭機動兵器MW100の機動力テスト中、模擬戦とはいえ熱くなった二人は予定のエリアを越え、惑星ディオの大気圏にまで達してしまっていたのだ。
機動兵器、モビルウェポンとは全長10メートル前後、重量30トン以下の飛行能力を有する制空・対艦・対地上制圧能力を併せ持つ戦闘機である。
高い対G能力を持つコクピットの完成を期に、宇宙空間と大気圏内での任務を兼務出来る機体の研究開発が求められた。その結果、マニュピレーターと歩行可能な脚部を有する機体が開発され、民間では作業用ポッドとして活用された。軍事分野においても宇宙・地上目標制圧に高い有用性が認められ、開発が続けられている。
軍用化を可能にしたもう一つの要因に、対歩兵・車両・航空機への武器管制システムCIWS(近接防御火器システム)搭載がある。複数の目標に対し、AIが自動制御で対処出来るのがモビルウエポンの強みである。
現在、宇宙軍では、高い機動性と哨戒・汎用・自衛能力を兼ね備えたモビルウェポンが主力兵器となっている。
ハヤトとしては、惑星への墜落の危険性を考慮し、ここで追跡を断念するのが最善の判断といえる。しかし、彼にはそれが許されない事情があった。敵機役のパイロット、久坂玄少尉とは、士官学校時代からのライバルであり、宇宙軍訓練課程においても激しく競い合った間柄だからである。二人は常に競争相手であったが、勝利者はゲンと相場は決まっていた。
「馬鹿言うな。性能試験の項目には大気圏突入も含まれているだろ」
「今回の訓練は機動特性の再確認が目的だろ!」
「硬い事いうなよ。成層圏に達しなければ問題なかろう――」
金属を鑢でそぎ落とす様な不快な雑音が耳を舐め、機関の奏でる不安な振動だけが、ヘルメットの後頭部にぞわぞわとした焦燥感を際立たせる。唐突に途絶えた通信と、大気との摩擦で発生した熱が歪めるモニター画面が、湧き立つ不安を煽っている。
「相変わらず勝手な奴だ」
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