結露

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 数年前まで、ここには素朴で、落ち着いた時間が流れる喫茶店があった。  今はパステルカラーの装飾と、派手なあつらえをしたカフェになっている。  休みになると、若い女の子がスマートフォン片手にずらりと並ぶようになった。立ち読みしたタウン誌によれば、チョコや砂糖菓子などを自由にトッピングできるソフトクリームや、カップケーキが人気らしい。  画像を掲載し、楽しそうな一言を添えるサイトでもよく話題にのぼると書かれていた。    ふと、店の前にあったゴミ箱に目がいった。  手つかずのまま捨てられたソフトクリームが溶けて、カップケーキと混ざり、重なり合っていた。    裏口から、丈の長いギャルソンエプロンをした女性が出てきた。片手に箒を握りしめている。  私と同じく、ゴミ箱を見つめた彼女は、湿っぽい声で呟いた。 「またか……」と。    掃除が終わるのを待ち、レジ前に並ぶカップケーキを買った。  キャラメルの風味が香ばしく、コーヒーによく合った。トッピングはしなかった。  写真を撮ることさえ忘れ、ひとときを楽しんだ。    結露にくもる窓へ、ゴミ箱を見て呟く、彼女の姿が浮かぶ。   「ごちそうさま」   ひとりごちた言葉が、届いてほしいと思った。
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