就職

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 凄い贅沢言っといてこれが控えめです的な顔をしてしまった。まぁ所詮希望は打ち砕かれるものだから。言っとくだけなら許して欲しい。  2人は俺の言葉を聞いて少しばかり目を丸くした。それから柔らかい笑みを浮かべて、強そうな彼が俺の肩に手を添えて集団の方へたもした。 「そうか。ちょうど今細かい説明しようってとこだ。聞いてけ。」  好感触というか意外とも言える反応に弱冠驚いたが、大人しく集団の内今話した彼と対面にいる人達の中に入る。 「よし。一人増えてくれたから、もっかい整理して話し直すな。」  そんな前置きから始まった話をまとめると。端的に言ってこのギルドの仕事は手紙屋さんだ。手紙や荷物なんかを届けるのが専門のギルド。ここでのギルド職員は"率先して手紙を届ける人"ということになる。  勿論一般的にこのようなギルドが存在するなど聞いたことがない。魔物を倒しまくって皆の憧れとなるようなギルド職員を求めて来た人からすれば期待はずれで、なんの旨みも感じない話だ。そもそも手紙屋の必要性を感じないだろう。  これまではギルドで討伐依頼や護衛依頼を受けた冒険者などに、"ついで"という形で手紙の輸送を頼んでいた。それをわざわざ手紙専用のギルドを立ち上げた訳だから存在自体に疑問を持つのも仕方がない。このギルドの存在意義はこれから理解されていくはずだ。  このギルドについての細かい職務内容は働きながらしっかり理解していくしかない。やる前から覚えようったってどうしても無理がある。実際にやってみて体で覚えるに限るね。  そう、俺はここで働くことに決めた。と言っても自分が決意を固めただけで、職員として採用された訳では無い。話を聞いて退かなければ働けるような甘い世の中ではないのだ。当然採用試験を受けなければいけない。  職員には、頭脳や強さ対話力、臨機応変な対応もしくはどれか1つがずば抜けて優れていれば採用されるかもしれない。  そう、ここがこのギルドの重要なところ。端的に言って手紙屋というだけで、結局はギルドとして機能しているので、手紙を運ぶだけの仕事にはならない。一般的な流れがひっくり返り、手紙を運ぶ"ついで"に行く先に関わる依頼を受けることになる。  ろくに話も聞かず憤って去った人々は損だな。つまるところ大元は違えどやることは大体同じなのだ。  それだったらほぼ普通のギルド職員と同じく危険で、俺の求める職に合わないのではないか?  むしろ天職だ。俺は両親を安心させたいだけで、血生臭いことに忌避感がある訳では無い。「手紙配達員になったよ」と報告すれば万事解決だ。  それにあくまでついでで受けるような依頼ならそこそこに強い俺に危険は無い。  完璧だ。俺のためにある仕事だと思う。  本気で採用されに行くと決めた。やる気は充分だ。  しかし、ここでちょっとした問題が上がる。  俺が若いって問題だ。  若いこと自体は悪いことじゃない。若くて健康的、将来有望。いいとこだらけだ。しかし、御歳16の俺は周りから見ればお子様というか早い話が 「お前学校とか行かなくて良いのか?」  と心配されてしまった。俺は俺を心配してきた例の強そうな彼より賢い自信がある。馬鹿にしてるとかじゃなくて事実だ。  とにかく、俺は俺を優秀な人材だと理解してもらうために他の年長者共より実力を示さないといけないのだ。
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