6.月のない夜には君の名を

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救急車なんてないんだった。 警察…それはダメだ。 病院! お医者さん呼んだほうがいいんだろうか。 遊女さんたちは? さっきすれ違った人は無事なの? 「せ…せり…」 動かない… ピクリともしないんだけど… この人は…生きていないのだろうか? 「芹沢…先生…?今どちらに…」 声をかけても何の反応もない。 この匂い… 雷鳴轟く中、畳や布団に黒い染みが見えた。 これ…血…! 腰を抜かしてがくっと倒れこむ。 床についた手も腕も足もガクガクと震える。 なぜ、ここでこんなことが起きてるの? みんながやったの…? 体に思うように力が入らなくて立ち上がれない。 怖い…怖いよ… 這うようにして部屋に戻り、泣きながら頭から布団をかぶる。 震えが尋常じゃない。 手を押さえつけても震えは止まらない。 何でこんなこと… 見てしまった。 ただの泥棒だったらよかった… 本当にあの芹沢鴨が…? あの人たちは生きてない…と思う。 斬ったのは、たぶん… 温厚な山南さんからは想像もできない。 無邪気な沖田さんもいない。 左之助兄ちゃんの明るい笑い声もなかった。 土方さん、何でこんなことしたの…?! 命を奪うなんて。 よく思っていないとはいえ、あの人たちだって仲間じゃないの? 怖くて怖くて、一晩中震えていた。     
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