6.月のない夜には君の名を

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翌朝。 雨は上がり、晴れ晴れと青い空が広がっている。 気持ちのいい、澄んだ空気。 空を仰いだら、眩しすぎて手をかざした。 ウソみたいだ。 大雨も雷も。 あの事件も。 昨日あんなことがあったなんて… わたしの心は動揺がおさまらない。 どしゃ降りのままで気が塞いでいた。 「おはようございます…」 「おはようさん」 朝食の準備を手伝う。 トントンと素早いリズムで野菜を切る八木のおばさんの横顔をチラリと見た。 おばさん… 昨日の夜こと、気づいてる…よね? 怖くて聞けなかった。 おばさんも何も口にしなかったから。 「かれんちゃん、近藤はんらの朝餉(あさげ)の準備終わったんか?」 「はい…」 「そろそろ皆に声かけたほうがええんとちがうか?」 「そうですね…」 嫌だな… あんまり顔見たくないかも。 どう声かけていいのか。 気が重いな。 一言めは何て言おう。 八木家の母屋と離れの間にある道場『文武館』。 大きな声が飛び交う。 剣術の朝稽古中、みんなの様子にも変わりはない。 いつものように汗だくで。 いつものようにハツラツとして。 いつも以上に熱心にお稽古してたのかもしれない。 入口から顔だけ少し出して中を見る。 「おはよう」 「きょ、局長…おはようございます…」     
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