6.月のない夜には君の名を

9/14
前へ
/868ページ
次へ
***** ゆっくりとまぶたを開く。 目覚めたら、部屋の布団の中。 体を起こすと、ぬるくなった手ぬぐいがおでこから落ちた。 少しだるい。 「あら、目ぇ覚めたんか?しんどないか?」 「おばさん…」 「急に倒れたんで驚いたわ。丸一日寝てたんよ。お医者様に診てもろたんやけど、軽い心労やって」 「すみません…」 「毎日よう働いてくれはるさかい、知らんうちに無理してたんやろなぁ」 体が熱いのに暑さは感じない。 鳥肌が立つほどの悪寒。 ストレスから熱を出したようだ。 タイムスリップという非日常。 知り合いもいない慣れない環境。 もとの時代に戻れないかもしれないという漠然とした不安。 決定打となったのは昨日の出来事… わたし、まだ幕末にいる。 「病んでる時に言うのも何やけど…。今日は芹沢はんらのお葬式なんよ」 「お葬式…?」 「昨晩、刺客に襲われたんやて。あないにどえらい物音で…なんちゅうこっちゃ」 「刺客に…」 「會津藩のお偉いさんも葬儀に参列しはるんよ」 そっか… 自分だけの悪夢ではなく、現実であることに間違いないみたいだ。 「お手伝いしなきゃ…」 布団から出ようとすると慌てて制止された。 「あきまへん!」 「平気です…あ…」 「ほれ見んさい。まだ無理はあかん」 「でも、忙しいのに…」 「ゆっくり休んで疲れとりや。お医者様かてそう言うてたさかい」 枕元には水の入った桶と薬。 その隣には持ってきたばかりの飲み水。 「こっちのことは気にせんでええんよ。今は言うこと聞いとくれやす」 「すみません…」 「早う横になりよし」 目眩を起こした体を支え寝かせると、顔まで被せて布団をかけてくれた。 「大人しく寝るんよ。体、大事にせなあかんえ」 「はい…」 急に睡魔に襲われ、目を閉じたらすうっと眠りについた。 そして、再び目が覚めたときにはすでに陽が落ちて暗くなっていた。
/868ページ

最初のコメントを投稿しよう!

370人が本棚に入れています
本棚に追加