6.月のない夜には君の名を

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もう夜だなんて、そんなに眠ってた? まだ頭がぼーっとするけど、薬が効いたのかだるさはない。 熱も下がったみたいだ。 起き上がり、汗を拭いた。 聞こえる。 お経、木魚の音。 あ、お線香のにおい。 かすかにこの部屋まで届いてくる。 目をとじ、手を合わせた。 勝手に唇が震える。 涙が一筋、こぼれて落ちた。 感情が不安定でコントロールできない。 おかしいな、こんなこと。 半開きの目のまま、バサッと大の字に寝転がる。 芹沢先生たちの死の理由は、長州藩からの刺客に襲われたことになっているらしい。 廊下からそう噂話をする声が耳に入った。 会津藩お預かりの名を利用した日頃の行いの悪さ、乱暴狼藉、非道な振る舞いの数々。 実は、それを見かねた会津藩からの暗殺指令だったとも。 頭おかしいんじゃないの? 人を斬って死なせて、その後いつもどおり普通の生活に戻れるなんて。 考えられない。 命に対する感覚が違いすぎる。 そうだ… 土方さんが言ってたっけ。 普段は普通に生活をして笑っていても、何かあったときにはためらわず人を斬る…って。 今いるのはそういう時代。 ここはそういう世界だ。 甘かった。 覚悟してたはずなのに、できていなかった。     
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