9.心に灯りをともす

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「でも…その、お聞かせするほど立派なものでは…」 「謙遜しないで。素晴らしい腕前じゃないか」 「いえいえ!滅相もございません…」 お願いだから、もう何も言わないでください。 はぁ…何でこうなるわけ? 窮地に追い込まれた。 子供たちの前で弾くのとは訳が違うんだよ。 童謡を弾くわけにもいかないし。 大丈夫なの? 世間は攘夷一色。 今、ピアノは完全に外国のもの。 会津は開国した幕府側とはいえ。 どうしよう…ありえない! 無理無理、絶対ムリ! うまく弾く自信がない… 「西洋の楽器とはどのような音色か?」 「それはそれは美しい奏でにございます」 「腕前など二の次。そなたの奏でる音が聞きたいのだ」 「わたしの、音…?」 お殿様からの直々のご要望。 断れるはずもなく。 ほんとはね。 心が動いたの、少しだけ。 わたしの音が聞きたいと言ってくれた。 その人のために弾きたいと思った。
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