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大好きなショパンの名曲。
弾けるようになりたくて必死に練習した。
主旋律がポロネーズのリズムを刻む。
余裕は皆無のため演奏に集中。
こんな緊張の場面で、なぜこの難曲を選んでしまったのか…少しの後悔。
力強く前進する華やかな旋律は、装飾音符を纏い、きらびやかに輝き。
威厳ある馬上の英雄が風を切り駆けていく。
中間部に向かうにつれて激しくなる。
左手のオクターブの繰り返し。
そして…
余韻が残る中、鍵盤から手を離した。
シンと静まり返る。
疲労感に漏らすため息。
終わった…
「実に見事であった」
空気を跳ね返す喝采。
長く深々と頭を下げた。
紅潮する頬。
スタンディングオベーションとまではいかなくとも。
ステージでスポットライトを浴びるピアニストはたぶんこんな気分。
「多彩な音色じゃ。何と申す曲か?」
「“英雄”でございます」
「西洋の曲か」
「申し訳ございません。祖国への強い愛国心を表した曲だと伺いましたので…」
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