9.心に灯りをともす

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大好きなショパンの名曲。 弾けるようになりたくて必死に練習した。 主旋律がポロネーズのリズムを刻む。 余裕は皆無のため演奏に集中。 こんな緊張の場面で、なぜこの難曲を選んでしまったのか…少しの後悔。 力強く前進する華やかな旋律は、装飾音符を纏い、きらびやかに輝き。 威厳ある馬上の英雄が風を切り駆けていく。 中間部に向かうにつれて激しくなる。 左手のオクターブの繰り返し。 そして… 余韻が残る中、鍵盤から手を離した。 シンと静まり返る。 疲労感に漏らすため息。 終わった… 「実に見事であった」 空気を跳ね返す喝采。 長く深々と頭を下げた。 紅潮する頬。 スタンディングオベーションとまではいかなくとも。 ステージでスポットライトを浴びるピアニストはたぶんこんな気分。 「多彩な音色じゃ。何と申す曲か?」 「“英雄”でございます」 「西洋の曲か」 「申し訳ございません。祖国への強い愛国心を表した曲だと伺いましたので…」
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