9.心に灯りをともす

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「異国の音楽でも心に響くのだな。そなたが予に届けてくれたのだ」 「ありがたき幸せにございます」 音楽に国境はない、って本当なんだ。 西洋音楽が幕末の日本人に通用したんだから本当なのだ。 なんか、感動だなぁ… なんて、ひとりでしみじみしていたら。 歩み寄り、わたしの手を取るお殿様。 「あ…」 驚きのあまり声が詰まる。 「殿!」 「美しい音色を紡ぐ、そなたの手は何と尊いことか」 もうこんな機会は訪れないだろう。 たった一時の賛美でも自然と満面の笑みに変わる。 「その誉れなる才も育むとよかろう」 「仰せのままにいたします」 今までにもわたしのピアノを褒めてくれる人はいた。 大きなコンクールで賞を獲ったことも実はある。 今日初めて会ったお殿様。 会津藩主とはいえ、失礼ながら思い入れがあるわけじゃない。 なのにこれほど、心を震わせるほどの感動で泣きそうになるなんて。
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