12.恋をするとは思わなくて

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「ああ、すまん」 「そんなに好きな人がいるんですか?」 無理して話しかけたのに、よりによって思いついたのはこんなことだった。 これじゃあ、自爆じゃん… 「好き?いい女なのは確かだが、俺は心の底から惚れたことなんてねぇよ」 「え…?どうして…」 いつもどおりの声が出ない。 「そんなの…相手の女の人に失礼じゃないですか…」 ショックだった。 心が折れそう。 島原に行ってたこと? それもそうだけど、違う。 「なぜ俺がモテるか分かるか?」 誰かを愛しく想ったり、大切に想うって幸せなことだよ。 大事な感情だと、わたしはそう思う。 「自分からは決して口説いたりしないからさ」 何か言ってたけど、今のわたしの耳には届かなかった。 心から人を好きになったことがないなんて。 体だけっていうこと? 土方さんにとって、恋って何? このご時世、暢気に恋してる場合じゃないのかもしれない。 でも、それ以前の問題だ。 「どうした?いつもの威勢は。具合悪りぃのか?」 「べ、別に…」 「まだ傷が疼くんじゃねぇのか?」 「平気です…」 この人は勘が鋭い。 堪えるんだ。 意地でも涙は見せない。 普段どおりにして、笑えば平気。 「片付けなきゃ…」 ぐいっと後ろから肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。     
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