15.まことの恋

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陽が沈んでいく。 おひさまのオレンジが妙に心に沁みる。 泣くだけ泣いて。 部屋の手前で足を止めた。 「何…」 虚ろなまま、目と目が合って。 待ちぶせしていた土方さんに無言で腕を掴まれ、部屋の中に引っ張り込まれた。 心拍数が急上昇。 すぐに分かったでしょ? 波打つ脈が伝える。 それほど動揺してるの。 「何するんですか…はなして…」 戸をピシャッと閉める。 手を離してくれない。 鼓動は速くなる一方。 息をするより速くて苦しい。 背中を向けたまま。 こっちを見ない。 見なくていい。 何でもいいから早く話して… 「なぜ断った」 「え…?」 「結婚すれば女の幸せを掴めるだろ」 冷静で落ち着いた低い声。 よくそんなに冷静でいられるよ。 そう思ったけど、当たり前だ。 土方さんが取り乱す理由なんてない。 「幸せになれるかも分からねぇ男なんか待つな」 それが答え? 手首の力は弱まらない。 あまりに強い力で痛いくらい。 この場から逃げると思った? 「…それを言うためにここへ?」 「そうだ」 「そっか…」 大丈夫、大丈夫。 自分に言い聞かせる。 そうしなきゃ、今にも挫けそう。 「今からでも遅くはねぇ…」     
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